A Better Place To Pray

I'm singing out my revolution song like nothing else matters

BE HERE NOW

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 おじいさんがベンチに座ってアコーディオンを弾いている。曲は「真っ赤なお鼻のトナカイさんはー」というクリスマスの定番のやつだ。おじいさんは本当におじいさんという感じだ。80近いと思う。

 その曲のタイトルを俺は知らない。「真っ赤なお鼻のトナカイ」がタイトルだったような気もするがわからない、と書いた途端に全然違う気になった。あたまのなかで「真っ赤なお鼻のトナカイ」と思ったときはそれがタイトルに違いないと思ったのだけども。
 おじいさんは流暢にメロディーを弾いていく。途中で詰まったりしない。伸びやかにアコーディオンの音はメロディーになって響く。響くという意思のある感じというよりも、流れてくるという感じの自然さだ。そこに音楽があることに無理が一切ない。なので、聴いてるこっちも思わずあたまのなかで歌詞を乗せて歌う。空にはひとつも雲がなくてとても高く見える。青のグラデーションがしっかり見える。
 子供だったら絶対にはしゃいでいたと思うし、おじいさんから離れずに近くで聴いていたと思うし、おじいさんに話し掛けたと思うけど、おじいさんから徐々に離れてアコーディオンの音が聞こえなくなると、「これこそが文化だ」とか「これが生演奏というか生で楽器を鳴らすことの素晴らしさだ」とか「MP3みたいなデジタル環境下での音楽というのはこれに比べたら『本当に楽器が鳴っているのか?』とすら思ってしまうな。ゲシュタルト崩壊するぞ」なんてことを思っている。要はアコーディオンの音についてはもう忘れている。

 そこは池だ。池は瓢箪の形で、南北に縦長く延びている。北側の面積が広く、瓢箪の括れのところに橋が掛かっていて、淵を一週出来るように遊歩道がある。ベンチはその遊歩道の所々に池の方に向いて座れるように淵にいくつも配置されている。そこにおじいさんが池に向かって座り、アコーディオンを弾いている。散歩をしてる人たちはおじいさんの目の前を通りすぎる。俺も目の前を通る。アコーディオンは白かった。